判示事項:共同漁業権から派生する漁業行使権に基づく開門請求の認容判決確定後,前訴口頭弁論終結時に存在した共同漁業権から派生する漁業行使権に基づく開門請求権が消滅したことのみでは当該確定判決に対する請求異議事由とはならないとされた事例
法廷意見:
「以上によれば,本件各確定判決に係る請求権は,本件各漁業権1から派生する各漁業行使権に基づく開門請求権のみならず,本件各漁業権2から派生する各漁業行
使権に基づく開門請求権をも包含するものと解されるから,前者の開門請求権が消滅したことは,それのみでは本件各確定判決についての異議の事由とはならない。」
菅野博之裁判官補足意見:
「本件各確定判決が多数意見の指摘するとおり要旨「判決確定の日から3年を経過する日までに開門し,以後5年間にわたって開門を継続せよ」という特殊な主文を採っていることや,そのような主文を採った理由,本件訴訟の審理経過等を踏まえると,本件訴訟の中核的な争点は,請求異議事由としての事情の変動による権利濫用の成否であると考えられる。そこで,これについて更に審理を尽くさせる必
要があるが,その審理,判断に当たって留意すべき点として,以下のような点を指
摘しておきたい。」
「一般的にいえば,前訴の口頭弁論終結後の事情の変動等により確定判決に基づく強制執行が権利の濫用となるということは,例外的な問題であって,安易に認められるべきものではないことは,論をまたないところであるが,本件においては,以上のような本件各確定判決の特殊性ないし暫定性を十分に踏まえた上で検討されるべきである。前記4でみたところによれば,本件各確定判決は,上記のような暫定的・仮定的な利益衡量を前提とした上で期間を限った判断をしていると解されるのであり,差戻審においては,前訴の口頭弁論終結後の事情の変動を踏まえて,このような判断に基づく債務名義により現時点において強制執行を行うことの適否についての検討を要しよう。
そして,前記将来予測の対象とされた期間が実際に到来し,更に前訴の口頭弁論終結時から長期間が経過した現在においては,このような期間の経過それ自体の評価とともに,上記判断の前提とされた事情に変動が生じているか否かが検討されなければならず,本件各確定判決の後も積み重ねられている司法判断の内容等も考慮して検討する余地もあろう。
以上のような諸事情を総合的に衡量し,本件各確定判決が暫定的な特殊な性格を有することを十分に踏まえた上で,本件各確定判決に基づく強制執行が事情の変動により権利の濫用となるに至っているか否かにつき,判断されるべきであると考える。」
草野耕一裁判官補足意見:
「一般論としていえば,物権的請求権の一形態である妨害排除請求権は,妨害行為によって生じている権利侵害がもたらす損害が全額塡補されたからといって当該請求権の行使自体を否定すべきものではない。しかしながら,問題とされている物権的請求権が経済的利益を化体したものであり(すなわち,人格権等の非経済的権利の侵害を伴っておらず),しかも,権利侵害を除去するために債務者がとらなければならない措置に要する費用がこれをとることによって発生を回避できる債権者の損害額を上回る場合において,債務者が債権者の被った損害(侵害行為が排除されないことによって今後被るであろう損害を含む。以下同じ。)を全額弁済しているか,あるいは,これと同視し得る事態が生じている(例えば,債務者が損害全額の弁済を行おうとしたのに債権者がその受領を拒絶したために債務者が当該金額の弁済の提供を行った事態などがこれに当たるであろう。)とすれば,それにもかかわらず妨害排除を強制することは,あえてそれを認めるべき別段の事由がない限り,権利濫用の法理によってこれを抑止することが相当であると思料する。しかるに,本件各確定判決の訴訟物に係る漁業権(それは多数意見に記された理由により本件各漁業権1と本件各漁業権2の双方から成るものであり,以下,併せて「本件各漁業権」という。)は所定の漁場において所定の方法を用いて漁業を営み,それによって得られる利益を独占的に享受するという経済的利益をもってその中核的保護法益とするものである。したがって,仮に,①被上告人が本件各確定判決を履行するために支出しなければならない金額が,被上告人がこれを履行したことによって発生を回避し得る上告人らの損害の合計額を上回り,しかも,②被上告人の本件各漁業権に対する侵害行為によって上告人らが被った損害を全額弁済しているか,あるいは,それと同視し得る事態が発生しているとすれば,それでも本件各確定判決の履行を強制すべき別段の事由がない限り,これを強制することはもはや権利の濫用に当たると解すべきである。 」
菅野裁判官・草野裁判官の両補足意見は,踏み込んだ内容になっているように思います。