弁護士伊藤祐貴@台東区・上野御徒町のブログ

第二東京弁護士会所属。労働問題(解雇無効、残業代請求、退職代行等)、離婚・不貞慰謝料請求、相続、遺産分割、景品表示法、民事、刑事、少年事件など。

無罪:検察官控訴棄却:虚偽診断書作成,同行使被告事件(大阪高決令和元年11月8日裁判所HP)

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=89051

 

1 主文

「本件控訴を棄却する。」

 

2 検察官の主張と裁判所の判断

(1) 争点1(事実誤認)

・検察官の主張1

「被告人が診療を担当したAが平成28年1,2月頃に重篤心室不整脈であるなどの事実はなかったのに,虚偽の事実を記載した検察官宛の平成28年2月5日付の回答書(本件回答書)を作成して郵送により提出し,もって,公務所に提出すべき診断書に虚偽の記載をし,それを行使したのに,被告人に対し,虚偽診断書作成及び同行使の事実を認めず,被告人を無罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある」

 

・裁判所の判断1

「本件照会書は,定型的で,照会目的のみならず回答を求める6つの項目も非常に簡単な内容に止まるものであることが認められ,このような照会を受けた医師の立場からすれば,一般的には,原判決のいう確定的判断が容易にできるものについてはその検査等の根拠に基づいた回答内容を記載し,そのような検査等がなされておらず今後の病状の予想も含む判断を求められていると理解した場合には,原判決のいう予測的判断に止まる記載をすることも十分考えられる状況にあったといえるから,当然に所論がいう確定的判断のみが記載されるとは限らないとみることができることからすると,その意味で,原判決が,同庁検察官からの本件照会が,そもそも,各種検査を行った上でその時点の診断をした確定的な診断に限定して回答を求めたものであったといえるかは疑わしいとの判断をしたと理解することができるから,この点に必ずしも誤りがあるとはいえ
ない。 」

「被告人作成の本件回答書の記載内容には曖昧さがあり,その趣旨が明確でない部分も多いことに照らすと,本件回答書の文面からも,被告人がその時点における予測的判断に止まる記載をした可能性が十分考えられるのであり,本件回答書の記載内容中,所論
が主張するところの照会事項1ないし5に対応する部分に関し,その全てについて,その作成時におけるAの病状等に対する各種検査を行った上でその時点における確定的な診断を内容とするものを示したものとは当然にはいえないのであるから,原判決が,本件回答書に所論がいう確定的診断としての記載がなされていることを前提としなかったことに誤りはない。」

 

*本件回答書が「確定的診断」を記載したものとも言えないし,そもそも捜査機関が「確定的診断」のみを記載するよう要請したものとも読めないということでしょう。

 

(2) 争点2(訴訟手続の法令違反)

・検察官の主張2

「原判決が本件回答書の記載内容が検察官の主張するようなAを刑事施設に収容することにつき否定的な判断をした趣旨と解するかどうか(論点①),被告人が本件回答書で求められていた診断が,いわゆる予測的判断か,確定的判断か(論点②)が虚偽性の判断に関わるとして,先に検討した上で,判断したことに対し,公判前整理手続において,論点て顕在化させないままに審理判決した点で,原裁判所には釈明義務違反があり,これが判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反に該当する」

 

・裁判所の判断2

(論点①)

「論点①は,本件回答書にある,収容に関係して記載された被告人の当時のAの病状等に係る部分の評価に関するものであって,少なくとも争点の一部として,虚偽性の判断に関わるものとして当事者において当然の前提として認識することができていたものと認められる。
 その上で,原審の審理の内容や状況をみると,原裁判所は,本件回答書の病名欄に記載された「重症心室不整脈」とは,心臓突然死のリスク(危険性)のある心室不整脈を指すことは争いのない事実と理解した上で,主要な争点を,本件回答書の虚偽性とし,Aの病状がそれに当たるか,その病状の根拠事実が客観的事実に合致するかを主張立証の対象として,これらに関する被告人の認識も含めて審理をしていたものであり,当事者双方とも,論点①が争点の一部であることを含めて,その虚偽性についての攻撃防御の訴訟活動を展開してきたことが認められる。このような状況にあったことから,公判前整理手続において,論点①をあえて別個独立の争点として立てるまでの必要はなかったとみるべきであるし,それを同手続内で意識的に顕在化させることにより,公判前整理手続において整理された事実主張や立証方針等が大きく変わるといった関係にもなかったものとみることができる。

 そうすると,原裁判所が所論のような釈明をした上,論点①を独立の争点として掲げて主張整理をしなかったことが,審理不尽を招くようなものとは
いえないから,原判決に,判決に影響を及ぼすような訴訟手続の法令違反(釈
明義務違反)があるとは認められない。」

 

(論点②)

「原裁判所は,被告人が予測的判断をしたという可能性を踏まえてその診断内容について改めて検討した上で,本件回答書については,結局,確定的判断が記載されたものとまでは認められず,結果として予測的判断が記載されたものと認定したものであるところ,その区別は,原裁判所が判決の結論を導くに際しての論理の説明をするために用いられた区分に止まるものと理解することができる。
 そのような原裁判所の視点や,虚偽性の判断対象に関する認識等を,当事者に明示して,争点整理等をしておく必要性があったか否かについて検討するに,本件の公判前整理手続における当事者の主張及び証拠の整理状況,原審の審理経過,取り調べられた証拠等によれば,原判決のいう予測的判断に係る医療データだけでなく,本件照会があった時点の頃の検査結果やその後の治療内容についても証拠化され,その証拠調べがなされており,被告人が以前の検査結果等と患者から聴取した自覚症状でもって判断したものなのか(予測的判断),その時点の検査データをも加えて検討した上での判断(確
定的判断)となっていたかについては,いずれも審理の対象となっていて,これに関わる事実関係に関する主張及び証拠提出も適切かつ十分になされていたといえること,原審の審理内容をみても,本件回答書の記載内容が医学的・客観的に虚偽であるといえるかの虚偽性の判断に関する攻撃防御は当事者によって適切になされていたことが認められるのみならず,いずれも医師である被告人及び原審証人Bもそのような区別については十分に意識した上で供述しているものと解されることからすると,論点②に関して原裁判所による釈明によって争点化等の手続が踏まれなかったからといって,虚偽性の
判断に対する両当事者の訴訟活動が不十分となったという関係は認められない。

 そうすると,本件公判前整理手続ないし公判手続の中で,審理の対象について原裁判所が前記のような考えや認識を持ったからといって,そこでそれらの点に関わる何らかの釈明をした上,争点化等しなかったことが審理不尽をもたらすという関係にあったとはいえないから,原判決に,判決に影響を及ぼすような訴訟手続の法令違反(釈明義務違反)があるとは認められない。」

 

*公判前整理手続の争点整理は難しい。