弁護士伊藤祐貴@台東区・上野御徒町のブログ

第二東京弁護士会所属。労働問題(解雇無効、残業代請求、退職代行等)、離婚・不貞慰謝料請求、相続、遺産分割、景品表示法、民事、刑事、少年事件など。

午前7時まで夕食をとれず1万円慰謝料事件(東京高判令和2年1月15日裁判所HP)

https://kanz.jp/hanrei/detail/89312/

 

・事案の概要:

「本件は,警視庁A警察署(以下「A署」という。)所属の警察官に逮捕され,同署所属の司法警察員に引致され,同署に留置された控訴人が,身柄拘束中に食事が提供されなかったことが違法であるとして,被控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償金15万円及び違法行為のあった日である平成30年3月2日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 」

 

・原審判断:請求棄却

 

・争点1(控訴人に食事を提供しなかったことの国家賠償法上の違法性の有無)の判断:

「一般的な生活習慣に鑑み,通常食事をとることが想定される時刻をまたいで被疑者の身体的拘束が相当な長時間継続した場合,あるいは,そうした継続が見込まれる場合にあっては,逮捕を行う者,あるいは,引致を受け取調べ等を行う者,さらに,留置業務に従事する者を問わず,被疑者と実際に接触し,その希望・意思を確認することができる警察官等において,被疑者から食事をとりたい旨の申出があったときはもちろんのこと,そうした申出がないときであっても,直近にとった食事の時刻を確認するなどした上で,食事の希望があるかどうかを確認し,その希望があれば食事を提供すべき義務を負うものと解するのが相当である。 」

「なぜなら,食事をとることは生命,身体の維持に不可欠な活動であり,食事をとる機会が1回失われたからといって直ちに生命,身体に危険が生じるとまではいえないものの,身柄拘束中の被疑者にあっても,適切な時期に食事をとる機会は最低限保障されるべきものと考えられる上,その置かれた環境・境遇に鑑みれば,空腹により大きな苦痛が生じる場合も少なくないと考えられ,さらに,食事をとっていないことやその希望があることを率直に警察官等に訴え出ることを躊躇することも考えられる反面,警察官等においてこの点を被疑者に確認することは極めて容易と考えられるからである。 」

*警察官の食事提供義務

 

「控訴人は,平成30年3月2日午後2時45分頃に職務質問を受けB署に移動後逮捕され,さらに,A署に移動して司法警察員に引致され,取調べを受けるなどした後,病院に移動して診察を受け,同日午後9時40分頃に同署に戻り,同日午後10時06分に留置場に留置され,翌朝午前7時頃に朝食を提供されるまでの間食事をとっておらず,少なくとも逮捕後は引き続き身体が拘束され,警察官等の監視の下に置かれており,自由に食事をとることができない状態にあったものと認められる。そうであるとすると,控訴人にあっては,通常食事をとることが想定される時刻をまたいで身体的拘束が相当な長時間継続していたというべきであるから,控訴人を直接監視し,接触していたA署所属の警察官において,食事の希望があるかどうかを確認し,その希望に応じて食事を提供する義務があったというべきであり,同警察官はこれを怠ったものと言わざるを得ない。」

「よって,A署所属の警察官が控訴人に食事を提供しなかったことは,公務員の職務上の義務に違反し,国家賠償法上違法といわざるを得ず,被控訴人はこれにより控訴人に生じた損害の賠償義務を免れない。 」

 

・争点2(損害の発生の有無及び損害額)の判断:

「身柄を拘束されていた控訴人は,夕食をとる一般的な時間帯から翌朝午前7時まで食事をとることができなかったことにより相当程度の精神的苦痛を被ったものと認められ,その他の本件に表れた一切の事情を考慮すると,これに対して1万円の慰謝料が支払われるべきである。
 また,控訴人は一審の訴訟追行を弁護士に委任しているところ(当裁判所に顕著である。),その弁護士費用は1000円の限度で被控訴人の違法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。 」

*慰謝料1万円