弁護士伊藤祐貴@台東区・上野御徒町のブログ

第二東京弁護士会所属。労働問題(解雇無効、残業代請求、退職代行等)、離婚・不貞慰謝料請求、相続、遺産分割、景品表示法、民事、刑事、少年事件など。

準抗告申立事件(神戸地裁姫路支決令和2年3月24日)

https://kanz.jp/hanrei/detail/89497/

 

・決定:「本件準抗告を棄却する。 」

 

・事案の概要:

「本件は,申立人が,検察官に対し,申立人が被告人であった当庁平成30年(わ)第●号,第●号強要未遂,公務執行妨害,有印私文書偽造,偽造有印私文書行使,住民基本台帳法違反,戸籍法違反被告事件(以下「本件基本事件」という。)のうち,有印私文書偽造及び偽造有印私文書行使の各事実について捜査中に差し押さえられた,前記強要未遂事件の被害者(以下「A」という。)に係る住民票の写し(神戸地方検察庁姫路支部平成30年領第●号符号●),戸籍の全部事項証明書(同庁平成30年領第●号符号●)及び戸籍の附票の写し(同庁平成30年領第●号符号●。以下,「本件各押収物」と総称する。)について,前記被告事件の確定判決において没収の言渡しがなかったのでこれらを還付することを求めたところ,検察官がこれを拒絶したことが不当であるので,その処分の取消し及びこれらを申立人に交付すべきことを命じる決定を求めるというものである。 」

*申立人が元被告人本人で,捜査中に差し押さえられていた被害者の住民票の写し等について,判決において没収の言渡しがなかったから,検察官にこれらを還付することを求めたが拒絶され,準抗告した事案。

 

・裁判所の判断:

「捜査機関が押収した物は,被告事件が終了したとき,没収や被害者還付の言渡しがなされていないときは,実体的な権利関係によって還付先を決するのではなく,被押収者が還付請求権を放棄しているときや被押収者に還付することができない場合のほかは,被押収者に還付しなければならないところ(刑訴法222条1項,123条1項。なお,最高裁昭和62年(し)第15号平成2年4月20日決定・刑集44巻3号282頁参照。ところで,申立人は同法346条を適示するが,同条は,裁判所が差し押さえた物,領置した物及び提出命令により提出させた物について適用されるものである。本件各押収物は,これらのいずれにも該当しない。),前記のとおり,本件基本事件に係る判決において,本件各押収物について没収や被害者還付の言渡しはない。また,Bは,還付請求権を放棄しているから,次いで,所有者である申立人に還付すべきこととなる。」

「本件各押収物は,申立人が,法律上,存在が認容されない偽造文書(大審院大正4年(れ)第898号同年5月14日・刑録21輯631頁)である本件各委任状を自ら行使し,かつ,当該行使によって直接的に得られたものである。」

「また,戸籍,住民票の写し及び戸籍の附票は,従前,何人でも謄本の交付申請ができたが,個人情報に対する配慮等を理由に,平成19年法律第35号及び同法律第75号によって,第三者が交付請求をできる場合を制限し,不正の手段によって本件各押収物の交付を受けることを,刑事罰を以て禁止することとなった(令和元年法律第17号による改正前の戸籍法133条,住民基本台帳法46条2号)。 」

「そうすると,本件各押収物について申立人に還付することは,戸籍法及び住民基本台帳法の趣旨を没却するものというべきであり許されないというべきである。 」

*①本件各押収物は申立人が法律上存在が任用されない偽造文書である本件各委任状を自ら行使し,かつ,当該行使によって直接的に得られたものであること,②本件各押収物を申立人に還付することは戸籍法及び住民基本台帳法の趣旨を没却するものであり許されないというべきであることから,申立人に還付することができない場合に該当すると判断した。

 

「申立人に還付請求権が認められると解するとしても,本件のように,不正の手段によって本件各押収物を取得した本人が,その還付を受けようとすること自体,自らなした違法行為の結果を保持しようとするものであり,法秩序維持の観点から是認できるものではない。そのため,申立人が還付を受けるべき特段の事情がない限り,申立人の還付請求権の行使は,権利の濫用に該当するというべきである。」

*仮に,還付請求権が認められるとしても,不正の手段によって本件各押収物を取得した本人が,その還付を受けようとすること自体,自らなした違法行為の結果を保持しようとするものであり,法秩序維持の観点から是認できず,権利の濫用にあたると判断した。