https://kanz.jp/hanrei/detail/89563/
・事案の概要:
「本件は,被控訴人が,控訴人及び1審相被告B(以下「1審相被告」という。)に対し,被控訴人と同性の事実婚の関係にあった控訴人が,後に控訴人と婚姻した1審相被告と性的関係を持ったことにより,控訴人と被控訴人との間の同性の事実婚の関係が破綻したと主張して,共同不法行為に基づき,婚姻関係の解消に伴う費用等相当額337万4000円と慰謝料300万円の合計637万4000円及びこれに対する不法行為日の翌日である平成29年1月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。」
「原審は,被控訴人の請求のうち,控訴人に対する慰謝料100万円と弁護士費用相当額10万円の合計110万円及びこれに対する遅延損害金の支払請求の限度で認容し,控訴人に対するその余の請求及び1審相被告に対する請求をいずれも棄却したところ,控訴人が,その敗訴部分を不服として控訴し,被控訴人が,控訴人に対し,更に慰謝料200万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めて附帯控訴した。なお,被控訴人は,当審において,第1審で求めていた合計637万4000円の損害賠償請求を,慰謝料300万円及び原審で認容された弁護士費用相当額10万円と遅延損害金部分の範囲に請求を減縮した。」
・結論:
「本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。」
・争点1(権利又は法律上保護される利益の有無)について
「控訴人及び被控訴人は,①平成21年3月から交際を開始し,平成22年2月から平成29年1月まで約7年間にわたり同居していたこと,②その間の平成26年12月には同性婚が法律上認められている米国ニューヨーク州で婚姻登録証明書を取得して結婚式を行った上,平成27年5月には日本国内で結婚式を挙げ,披露宴も開催し,その関係を周囲の親しい人(一部の親族も含む。)に明らかにしていたこと,③その後,2人で子を育てることを計画し,控訴人は,平成27年7月頃から,2人で育てる子を妊娠すべく,第三者からの精子提供を受けるなどし,被控訴人は,平成28年12月までには,控訴人と将来的には子をもうけて育てる場所としてマンションの購入を進めていたことが認められる。
以上の事実に照らすと,控訴人及び被控訴人の上記関係(以下「本件関係」という。)は,他人同士が生活を共にする単なる同居ではなく,同性同士であるために法律上の婚姻の届出はできないものの,できる限り社会観念上夫婦と同様であると認められる関係を形成しようとしていたものであり,平成28年12月当時,男女が相協力して夫婦としての生活を営む結合としての婚姻に準ずる関係にあったということができる。したがって,控訴人及び被控訴人は,少なくとも民法上の不法行為に関して,互いに,婚姻に準ずる関係から生じる法律上保護される利益を有するものというべきである。」
*控訴人と被控訴人の本件関係は,同性同士であるため法律上の婚姻の届出はできないものの,できる限り社会通念上夫婦と同様であると認められる関係を形成しようとしたものであり,婚姻に準ずる関係(準婚)であった。したがって,少なくとも民法上の不法行為に関して,準婚関係から生じる法律上保護される利益を有していた。
「この点,控訴人は,同性の夫婦関係又は内縁関係については,貞操義務が生じたり,法的保護に値したりする段階にはなく,同性婚の問題は立法によって解決すべき問題であり,また,どこまで同性カップルに法的保護を与えるか基準が不明確である上,さらに,控訴人と被控訴人との生活実態(生活費はお互いに負担し合う関係にあった。)からして,同性同士のカップルにすぎず,両者が同性同士の夫婦関係又は内縁関係にあったとは認められないから,被控訴人には「他人の権利又は法律上保護される利益」は認められない旨主張する。しかしながら,そもそも同性同士のカップルにおいても,両者間の合意により,婚姻関係にある夫婦と同様の貞操義務等を負うこと自体は許容されるものと解される上,世界的にみれば,令和元年5月時点において,同性同士のカップルにつき,同性婚を認める国・地域が25を超えており,これに加えて登録パートナーシップ等の関係を公的に認証する制度を採用する国・地域は世界中の約20%に上っており(乙3),日本国内においても,このようなパートナーシップ制度を採用する地方自治体が現れてきている(甲12,13)といった近時の社会情勢等を併せ考慮すれば,控訴人及び被控訴人の本件関係が同性同士のものであることのみをもって,被控訴人が前記 のような法律上保護される利益を有することを否定することはできない。また,控訴人及び被控訴人は,前記(1)のとおり,単に交際及び同居をしていたのではなく,米国ニューヨーク州で婚姻登録証明書を取得して結婚式を行った上,日本においても結婚式等を行い,周囲の親しい人にその関係を周知し,2人で子を育てることも計画して現にその準備を進めていたのであるから,控訴人が被控訴人に従属する関係にあったとはいえないし,控訴人の指摘するように控訴人及び被控訴人が生活費を互いに負担し合う関係にあった点のみをもって,平成28年12月当時,前記のような婚姻に準ずる関係にあったとの認定を左右するものではない。控訴人の上記主張は採用できない。 」
・争点2(控訴人が故意又は過失により被控訴人の権利又は法律上保護される利益を侵害したか否か)について
「控訴人は,1審相被告が,性同一性障害であり,男性としての行為に興味がない上,勃起不全で挿入行為もできない状態にあるから,控訴人が1審相被告と挿入を伴う性行為をしたことはなく,1審相被告とペッティングをしたことは不貞行為に当たらない旨を主張する。
しかしながら,控訴人が,たとえ1審相被告との間で挿入を伴う性行為を行っていないとしても,前記(2)のとおり,平成28年10月の流産後,平成28年12月28日から平成29年1月3日にかけて1審相被告宅に宿泊したときまでの間に,1審相被告との間で複数回にわたりペッティング(挿入を伴わない性行為)を行ったことは優に推認することができる。この事実に照らせば,控訴人の指摘する点を踏まえても,控訴人が1審相被告と性的関係を結んだと認めることは妨げられず,控訴人と被控訴人とのそれまでの経緯に照らせば,婚姻に準ずる関係である本件関係の解消をやむなくさせる行為であって,不法行為に該当すると認められる。控訴人の上記主張は採用できない。」
*控訴人のペッティング(挿入を伴わない性行為)をしたことは不貞行為に当たらないという主張について,控訴人の指摘する点を踏まえても,控訴人が1審相被告と性的関係を結んだと認めることは妨げられず,控訴人と被控訴人とのそれまでの経緯に照らせば,婚姻に準ずる関係である本件関係の解消をやむなくさせる行為であって,不法行為に該当すると認められるとした。挿入したかしなかったかは,重要ではない。